2026年9月21日、クロスチェーン基盤のLayerZeroが、米国の暗号資産銀行Anchorage Digitalのステーブルコイン発行において、相互運用性パートナーに選ばれたと発表した1。Anchorage Digital Bank, N.A. が発行するステーブルコインを複数のブロックチェーンで使えるようにする役割で、LayerZeroは「preferred interoperability layer」、つまり優先的に採用される相互運用レイヤーと位置づけられている。最初の対象はTetherの米国向けステーブルコインUSATで、LayerZeroのトークン規格OFTを使う。

このニュースが目を引くのは、タイミングだ。2026年4月にKelp DAOのブリッジから約2億9,200万ドルが流出して以降、LayerZeroを離れてChainlinkのクロスチェーン基盤CCIPへ移るプロジェクトが続いてきた。8月にはBitGoがWBTCの移行を、米ワイオミング州が州のステーブルコインFRNTの移行を発表し、LayerZeroの検証者を務めていたNethermindもその役割を降りた。9月14日には、ワイオミング州のステーブルトークン委員会が、LayerZero Labsの運用上のセキュリティに繰り返し問題があったとする文書を公表している。Anchorageの発表は、その1週間後だった。

離れる動きが続くなかで、連邦の銀行免許を持つ米国の銀行がLayerZeroを選んだ。潮目は変わるのか。この記事は、その問いから始まっている。

日本についても、この件は見立てを変える材料になった。9月17日に書いた「LayerZeroは日本の金融オンチェーン化のどこで効くのか」2では、LayerZeroが日本で必要とされる条件を整理したものの、具体的な出番は描けずにいた。国内の主要な基盤は、チェーンをまたぐ部分のパートナーをすでに決めていたからだ。ただ、LayerZeroがAnchorageや韓国のBDACSで担っている役割を見直すと、日本で入りうる場所の見え方が変わった。

以下、この問いと、日本にとっての意味を整理する。

Kelp事件以降の流れ

Anchorageの選定は、LayerZeroを離れる動きが5か月続いた後に行われた。

2026年4月、再ステーキングのプロトコルKelp DAOが、LayerZeroを使ったブリッジから約2億9,200万ドル相当のトークンを不正に引き出された3。チェーン間のメッセージが本物かどうかを確認する検証者(DVN)が一つしか設定されておらず、その検証者が参照する外部のサーバーが攻撃者に操作されたことが原因とされる。LayerZeroは当初、Kelp側の設定の問題だと説明したが、5月9日には、高額の取引で自社の検証者を唯一の検証者として使わせていたのは誤りだったと認め、検証者の構成の標準を引き上げた4

その後、LayerZeroを離れてChainlinkのCCIPへ移る発表が続いた5。主なものを時系列で並べる。

時期主体内容
5月KelprsETH、約15億ドル
5月7日Solv Protocolトークン化ビットコイン、約7億ドル
5月14日Krakenトークン化ビットコインkBTCなど、約3.3億ドル
5月Lombardトークン化ビットコイン、10億ドル超
5月18日Tenbin Labsトークン化した金や通貨。CCIPを唯一の基盤に
7月までVirtuals Protocol、Re約7億ドル、約4.75億ドル
7月9日MantleBybitと共同開発したSuper Portal、MNT、25億ドル超
8月4日BitGoWBTC、約73億ドル。今後BitGoが発行する資産もCCIPを標準に
8月18日ワイオミング州州のステーブルコインFRNT。CCIPを独占的に採用する複数年の契約
8月19日NethermindLayerZeroの検証者の役割を降り、Chainlinkのノード運営者に
9月14日ワイオミング州ステーブルトークン委員会が、移行の理由を説明する文書を公表

報道ベースの移行額は、8月時点で約145億ドルになる6。主な発表は、Tenbin Labs7、Mantle8、BitGo9、ワイオミング州10、Nethermind11によるものだ。ワイオミング州の文書は、LayerZero Labsの運用上のセキュリティに「繰り返し重大な問題があった」とし、重要な秘密鍵の管理、独立した検証者の選択肢の少なさ、セキュリティの組み立てを個々の開発者に委ねすぎる設計を挙げた12

LayerZero側では、8月に機関向けの取引基盤ATLASを発表し13、9月7日に韓国のBDACSがウォン建てステーブルコインにOFTを採用14、そして9月21日にAnchorageが続いた。発表翌日には「Why Regulated Matters」という記事を出し、Anchorageの件を、業界の標準がどこで決まりつつあるかを示す最も明確なシグナルだと位置づけている15

潮目は変わるのか

反転と呼ぶにはまだ早い。それでも、この一件には、流れの向きを問い直す重要なきっかけになりうる点が二つある。

一つは、判断した主体の性格だ。9月14日に移行の理由を公表したワイオミング州は州政府の機関で、9月21日にLayerZeroを選んだAnchorageは連邦の銀行免許を持つ銀行だ。どちらも、米国で公的な責任や規制のもとにある主体である。1週間のうちに、そうした主体が反対の結論を出したことになる。

もう一つは、Anchorageが発行基盤であることだ。Anchorageは、TetherのUSAT、Western UnionのUSDPT、香港のOSL GroupのUSDGOなど、他社のステーブルコインを発行する基盤を持っている。離れた側の多くは、自社のトークンを移した個別のプロジェクトだった。Anchorageの選択は、これから同社の基盤で発行されるステーブルコインにも及ぶ。

一方で、離れた側が移したのは実際に流通している資産で、合計は約145億ドルにのぼる。Anchorage経由のステーブルコインは、現時点ではまだOFTで複数のチェーンに展開されていない。また、ワイオミング州が問題にしたのは検証者の選択肢と鍵の管理だったが、Anchorageの件でどの検証者がどの構成で移転を確認するのかは、公表されていない。

潮目が変わったかどうかは、Anchorage経由のステーブルコインが実際にOFTで動き始め、ほかの発行基盤が続くかどうかで決まる。LayerZeroの安全性の証明とは関係なく、規制下の銀行に選ばれたことは強い実績である。

日本にとっての意味

米国の流れは、日本でLayerZeroがどこに入れるかという問いとも重なっている。

LayerZeroがAnchorageで担うのは、一つの発行体が出したトークンを、複数のチェーンで一つの供給として扱い、チェーン間で移せるようにする役割だ。

日本の銀行系の基盤は、この部分の答えの候補をすでに持っている。三菱UFJ信託銀行が筆頭株主の合弁会社Progmatは、Datachainと組んで、あるチェーンで焼却して別のチェーンで発行する形の移転を、ブロックチェーン間通信の規格IBCで2024年にテストネット検証している16。これが本番でどこまで使われているかは確認できていない。SBIグループはChainlinkと組んでいる17

答えがまだないのは、銀行系の基盤の外で発行されるステーブルコインだ。日本円ステーブルコインのJPYCは4つのチェーンで個別に発行されていて18、チェーン同士をつなぐ公式の仕組みはない19。韓国でLayerZeroを採用したBDACSのKRW1も、同じ課題を抱えていた14

日本でLayerZeroが入りうるのは、Anchorageのように発行基盤の中に入る形よりも、BDACSのように個別の発行体に採用される形だろう。国内の基盤がパートナーを決めていても、LayerZeroの役割が残っていないわけではない。ただ、それは銀行系の基盤の中ではなく、その外にある。今回の件で見立てが変わったのは、この点だ。

今後の注目点

四つある。

Anchorage経由のステーブルコインが、OFTで複数のチェーンに広がるか。USATは現在Ethereumのみで約1.83億ドル20。USDGOは他チェーンへの展開を計画として明記している21。実際に展開が始まり、2本目、3本目が続けば、発行基盤に入ったという見方が裏づけられる。

Anchorageの件で、検証の構成が示されるか。ワイオミング州が問題にしたのは、検証者の選択肢と鍵の管理だった。Anchorageでどの検証者がどの構成で移転を確認するのかが示されれば、その問いへの答えになる。

離れる動きが止まるか。ほかの発行基盤がどちらを選ぶか。新たに連邦の銀行免許を得た事業者が発行基盤を立ち上げるとき、LayerZeroとChainlinkのどちらを選ぶか。潮目が変わったかどうかは、ここに最もはっきり表れる。

日本で、銀行系の基盤の外にある発行体がどう動くか。複数のチェーンで発行されている円建てステーブルコインが、チェーン間の移転にどの仕組みを選ぶのか。