③では、国内の銀行系の基盤がDatachainのLCP・IBCやChainlinkのCCIPなど、自前のクロスチェーンをすでに持っていること、空いているのは、その外にいる独立した発行体が自分のトークンを複数のチェーンへ届ける「流通」の層であることを書いた。LayerZeroが入るとすれば、JPYCのような発行体に一社ずつ採用される形だろう、とも。この記事では、その入り口を具体的に見ていく。

LayerZero不在の日本

日本にもLayerZeroの接続はある。ソニーグループのSoneiumや、日本発のブロックチェーンAstarには、今もLayerZeroとつながる接続口(エンドポイント)が存在する1。ないのは、それを使う日本の発行体と、国内で検証を担う事業者だ。

日本発のチェーンでは、Japan Open Chain(JOC)の扱いが目を引く。LayerZeroは9月30日で、JOCでのDVNとExecutor(チェーン間のメッセージを検証・実行するオフチェーンの仕組み)の提供を止める。7月から続く、利用の少ないチェーンの整理の一つで、対象は40チェーンにのぼる2。なお、SBIとStartaleが2月に発表した新しいチェーンStriumは、まだ実証段階にあり3、LayerZeroの対応チェーンには含まれていない1。

日本発のトークンでは、別の選択もあった。AstarのASTRは2025年6月、Soneium上で初めてChainlinkのクロスチェーントークン規格に対応したトークンとなった4。

LayerZeroは2026年2月、ブロックチェーン事業の支援を手がけるPacific Metaと提携した5。日本発のデジタル資産をOFTで海外へ流通させることを掲げ、検証の構成や運用設計の支援もうたっている。ただ、これを通じてOFTを導入した日本の事例は、公開されている範囲では見当たらない。

検証者の側では、不在がよりはっきりしている。LayerZeroが公開しているDVNの一覧には、GoogleやDeutsche Telekomのような大手から、Paxos、Ondo、Anchorageといった発行体や発行基盤まで、数十の運用者が並ぶが、日本企業は一社もない6。

発行体は、JPYCから

発行体の候補として一番近いのは、③で見たJPYCだ。JPYCにはチェーン間で供給を動かす仕組みがまだなく、JPYC社もその計画を公表していない。ただ、JPYCが載るEthereum、Polygon、Avalanche、Kaiaは、いずれもLayerZeroとつながっており、土台はそろっている1。チェーン間の移転にはChainlinkのCCIPなどほかの手段もあるので、LayerZeroが選ばれる保証はない。それでも、OFTを入れる理由は、韓国での動きに表れている。

JPYCが初めてウォンで取引されたのは、9月の韓国のUpbitだった7。上場の直後、価格は一時3倍を超えた。Upbitが対応したのはEthereumだけで、ほかのチェーンの供給を直接移す仕組みはなく、品薄を埋めるには発行窓口で新たに発行するしかなかった(詳しくは③)。同じ9月、ウォン建てのステーブルコインKRW1を発行する韓国のBDACSは、LayerZeroのOFTを採用した8。KRW1が載るEthereum、Polygon、Avalancheには、JPYCも載っている9。さらに、JPYCの流通が6月に3.3億円を超え、一時チェーン別で首位になったKaiaは10、韓国のKakao系のKlaytnと、LINE系のFinschiaが統合してできたチェーンだ11。

JPYCがOFTになれば、保有者は、韓国の取引所がどのチェーンに対応していても、自分でJPYCをそこへ移せる。Upbitで起きた品薄は、発行窓口を通さずに埋められる。KRW1と同じ規格で同じチェーンに並ぶので、円とウォンを交換する場をどこに作っても、両方の供給を集められる。交換を事業にするには両国の規制の整理が要るが、ウォンの側はすでにLayerZeroの上にいる。

責任の相手を、日本に置く

発行体に理由があっても、それだけで採用が決まるわけではない。日本の金融機関は、外部の仕組みを使うとき、どこまでを自分が、どこからを提供者が責任を負うのかを先に決める。金融庁は2024年10月のサイバーセキュリティのガイドラインで、外部の事業者との契約に役割分担と責任分界を明記するよう求めている。クラウドについては、利用者と事業者が責任を分け合う「責任共有モデル」を理解し、設定に誤りがないかを確かめることも求めている12。

LayerZeroも、役割の分け方はこの責任共有モデルに近い。接続口や既定の構成はLayerZeroが用意し、どのDVNに検証させるか、誰がコントラクトの権限を持つかは発行体が決める。2026年には、この境目で二つの件が起きた。

4月には、Kelp DAO(リステーキングのプロトコル)から約2.92億ドルが流出した。このとき、チェーン間のメッセージの検証は、LayerZero LabsのDVN一つだけに任されていた13。検証者を決めるのはKelpの側だが、一つだけという構成は、LayerZeroの手引きにある設定例と同じだった14。LayerZeroはその後、既定の構成を3者以上の検証に改めている15。

8月には、メタバースゲームThe SandboxのSANDで、Base上のコントラクトに残っていた古い関数を突かれ、LayerZeroの設定を変えられる権限が乗っ取られた。裏付けのないSANDが大量に発行され16、Ethereum側からは約1,475万SAND(約67.5万ドル)が引き出されている。原因はLayerZeroの仕組みではなく、SAND側のコントラクトの設計にあったとされる17。トークンの権限をどう設計するかは、どのクロスチェーンの仕組みを使っても、発行体が負う部分だ。

ガイドラインに沿えば、日本の機関には、責任分界を契約で定められる相手が要る。一方、LayerZeroは誰でも契約なしに使える仕組みだ。ただ、発行体は検証者を選び、重ねることができる。米国でトークン化株式などを手がけるOndo Financeは、Canary、LayerZero Labs、Ondo自身という三つのDVNで検証している18。先に見たDVNの一覧には、Deutsche Telekomのような通信会社も並ぶ。日本の通信会社やシステム会社がDVNを運用すれば、日本の発行体は、契約で向き合える国内の相手を検証の中に置ける。その役を担う日本企業は、まだ一社も現れていない。

JOCで、発行体と検証者がそろう

発行体と検証者が一度にそろいうる場所として、JOCがある。9月24日、JOCを運営する日本ブロックチェーン基盤は、円建てのステーブルコインEJPYの実証を26社・団体と始めた。EJPYはJOCとEthereumでの発行を予定しているが、二つのチェーンの間をどうつなぐかは明らかにされていない19。LayerZeroがJOCを離れる9月30日は、その6日後にあたる。

止まるのは、LayerZero Labs自身が動かしていたDVNとExecutorで、JOC上の接続口は残る。DVNはLayerZero Labsに限らず誰でも立てられ、メッセージの実行も誰でもできる2021。JOCでは日本企業がバリデータとして取引の検証を担っている22。EJPYがOFTでJOCとEthereumをつなぎ、そのバリデータのうち複数がDVNを担えば、発行体と国内の検証者が同時に生まれる。

一度DVNを動かせば、対応するチェーンを広げることで、JOC以外の案件の検証も引き受けられる。JPYCのような発行体が国内の検証者を求めたとき、最初の候補になる。

EJPYがチェーン間の移転を必要とするか、実際に使われるかは、日本ブロックチェーン基盤と市場が決める。一方で、その手段にLayerZeroを選んでもらうことと、バリデータに検証を引き受けてもらうことは、働きかけによって動きうる部分である。EJPYは2026年度内の発行を目指し、実証は2027年2月まで続く19。つなぎ方が決まるなら、この半年のうちだ。

接続口は、すでに日本にある。それを使う発行体と、支える検証者の候補も、国内に見えている。