⑤まで、日本の側からLayerZeroの入り口を見てきた。③では、銀行系の基盤の外にいる発行体の「流通」が空いていること、④では、その入り口と担い手の不在を書いた。⑤では、ChainlinkのCCIPChainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコル 2.0が出たあとも、その入り口が変わらないことを確かめた。最後に向きを変え、LayerZeroの側から、日本をとる意味を考える。

LayerZeroが向かう先

2026年のLayerZeroの発信には、はっきりした方向がある。9月22日の「Why Regulated Matters」では、ステーブルコインが広く使われない理由は技術ではなく信頼にあり、規制はその前提になると述べた1。9月8日の報告では、ドル以外の通貨建てのステーブルコインは、時価総額ではまだ小さいが、供給はドル建ての3倍以上の速さで伸びており、その理由は一時的なものではなく構造的なものだとした2。CEOのBryan Pellegrinoは8月、事業の柱を三つに整理した。資産がさまざまなチェーンに広がるのを支えるクロスチェーン、24時間動く世界の市場を支える取引の仕組みATLAS、AIの時代の取引量に耐える独自のブロックチェーンZeroだ3。

今のLayerZeroは、規制されたお金、ドル以外の通貨、24時間動く世界の市場の三つに向かっている。

三つが重なる日本

規制の面では、日本は早かった。ステーブルコインを「電子決済手段」と位置づける改正資金決済法は、2023年6月に施行された4。2025年10月には資金移動業者のJPYC社が円建てのJPYCを発行し5、2026年6月にはSBIグループとStartaleが、信託銀行が発行する信託型のJPYSCを出した6。Japan Open Chain(JOC)では、円建てのEJPYの実証が進む(④)。7月には、暗号資産を金融商品取引法の対象に移す改正法が成立し、大部分は公布から1年以内に施行される7。

通貨の面では、円はドルとユーロに次ぐ規模を持つ。国際決済銀行(BIS)の2025年の調査では、世界の外国為替取引の16.8%に円が関わっている8。これは法定通貨の円の数字だが、LayerZeroがドル以外のステーブルコインが伸びる理由に挙げるのも、規制の明確さ、通貨主権、その通貨で決済したいという実際の需要だ2。どれも、今のオンチェーンの規模ではなく、もとになる通貨と制度の側にある。

市場の面では、日本取引所グループに上場する企業の時価総額は合わせて約7.8兆ドル(2025年末)あり9、公募のセキュリティトークンの累計発行額は約3,333億円に達した10。日本の金融機関は、新しいチェーンや海外の取引の場にも手を伸ばしている。9月に本番稼働したCircleのArcでは、SBIグループと住友商事が、米国の証券の清算と決済を担うDTCCや、ニューヨーク証券取引所を傘下に持つICEと並んでバリデータを務める11。DTCCとICEは、LayerZeroのZeroの活用も探っている12。SBIホールディングスは7月、シンガポールの暗号資産取引所Coinhakoを子会社にし、世界の取引所をつなぐ構想を掲げた13。ATLASやZeroが日本と接するとすれば、こうした動きの先になる。

日本では、三つの方向がそろい、制度も先に整っている。

動き始めた円とウォン

隣の韓国では、順番が違う。ウォン建てのステーブルコインを定める法律は、誰に発行を認めるかをめぐる議論で止まっている。9月21日の韓国の経済紙の論説は、日本のスタートアップが発行する円建てのステーブルコインを、先行する例として挙げた14。

それでも、LayerZeroはすでに韓国の中にいる。2025年10月、韓国最大の取引所Upbitを運営するDunamuの系列Noditが、DVNLayerZeroでチェーン間メッセージの真正性を確認する検証者の運用者に加わった。LayerZeroは、東アジアで初めてのDVNLayerZeroでチェーン間メッセージの真正性を確認する検証者運用者だとしている。Pellegrinoは、金融機関などから信頼され、経験を積んだ事業者こそDVNLayerZeroでチェーン間メッセージの真正性を確認する検証者に迎えたいと述べている15。同じ月にはウォン建てのKRWQがLayerZeroのOFTLayerZeroの、同じトークンを複数チェーンで扱う規格で発行され16、2026年9月にはBDACSがKRW1でOFTLayerZeroの、同じトークンを複数チェーンで扱う規格を採用した17。アジアのステーブルコインの業界団体Asia Stablecoin Alliance(ASA)も、LayerZeroのアジア太平洋地域の責任者らが立ち上げた18。

一方、円とウォンの間には、直接の市場がない。韓国の外国為替市場でウォンと直接取引されるのはドルと人民元で、円とウォンの相場はドルを介して算出される1920。1996年に一度開かれた円とウォンの直接の市場は、取引が少なく4か月で閉じた21。韓国政府は6月、貿易の決済でドルへの両替をなくし、為替リスクと費用を減らすため、ウォンと相手国の通貨を直接取引する仕組みを東南アジアに広げる方針を固めた。日本も視野に入れていると報じられている22。銀行の側では、国際決済銀行(BIS)が各国の中央銀行と進めるProject Agoráで、7月に円やウォンを含む6通貨の送金が、トークン化した預金で実際に試された23。

円とウォンの間を行き来する人は多い。2025年に日本を訪れた外国人で最も多かったのは韓国からの約946万人で24、旅行中に使った額は9,864億円にのぼる25。

そこに、ステーブルコインでの需要の兆しが出ている。9月17日、JPYCが韓国のUpbitで初めてウォンと取引されると、価格は一時1円を大きく上回り(③)、その日のうちに約25億円分のJPYCが新たに発行された。それまでの累計の3割にあたる量だ。増えた分の96%は、価格が1円から離れたEthereumとPolygonに集中しており、価格差を狙った発行が多かったとみられる2627。ただ、その流れを運んだのは、チェーン間の仕組みではなく、JPYC社の発行窓口だった。

受け皿になりうる場所も出てきた。KakaoのKlaytnとLINEのFinschiaが統合したKaia(④)では、JPYCが使われ、Kakaoはウォン建てのステーブルコインを準備している28。9月11日には、日本の決済会社ネットスターズがKaiaと基本合意を結び、Kaia上のステーブルコインを、国内約70万か所の加盟店で使えるようにする取り組みを始めた。USDTやJPYCに加え、ウォン建てなどアジア各国の通貨建てへの対応も検討し、加盟店は円で入金を受ける形を前提にするという29。KaiaもLayerZeroとつながっている(④)。

韓国の側では、LayerZeroは検証者と発行体をそろえ、業界団体まで立ち上げた。日本の側では、LayerZeroは2月にPacific Metaと組んだが(④)、本番で動く検証者も、OFTLayerZeroの、同じトークンを複数チェーンで扱う規格を使う発行体も、まだ見当たらない。

数字に表れない日本

日本の側がまだ空白なのには、理由がある。まず、オンチェーンの円は、全体から見ればまだ小さい。CoinGeckoの集計では、ステーブルコイン全体は約2,900億ドルで、円建てはその0.1%に満たない30。LayerZero自身も、ドル以外のステーブルコインは時価総額ではまだ誤差の範囲だと述べている2。

次に、LayerZeroは7月から、利用の少ないチェーンでの自社の検証と実行の提供を、順に止めてきた。JOCがそこに加わったのは9月25日で、EJPYの実証が始まった翌日だった(④)。これから動き出す案件は、今の数字には表れない。LayerZero自身も、買収したStargateの古い仕組みを畳むなど、力を集中させている31。

さらに、日本の銀行系の基盤は、すでにほかの仕組みと組んでいる。ProgmatはDatachainと、SBIグループはChainlinkと組み、SBIグループのデジタル資産部門はCCIPChainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコルを唯一の仕組みとして使っている(③、⑤)。

ただ、日本を見直す声は、すでに出ている。10月1日にソウルで開かれるASAの会議には、「Japan Moved First(日本は先に動いた)」と題し、世界の企業がまだ日本の変化を過小評価していると問うセッションが組まれ、SBIグループも登壇する32。関心は集まり始めているが、具体的な案件の形にはなっていない。今の取引量という物差しでは、日本の重みはまだ測れない。

日本をとる意味

LayerZeroは、欧州、中南米、中東、アジア太平洋の主要なドル以外のステーブルコインが、自社の仕組みを選んでいると述べている2。だが、アジアの通貨建てのステーブルコインで最も大きいのは円建てだ。CoinGeckoの通貨別の集計では、円建てはユーロ建て、ルーブル建てに次ぐ規模で、アジアの通貨ではほかを大きく引き離す。ウォン建ては、同じ集計ではまだ100万ドルに届かない30。ブロックチェーン上の記録を集計すると、JPYCだけで、発行体が発行と償還のために持つ分を除いて、約38億円(約2,400万ドル)が出回っている33。円をとることは、LayerZeroがドル以外の通貨で描く地図の、アジアで最も大きな空白を埋めることになる。

円をとれば、韓国で積み上げてきたものとの相乗効果も生まれる。ドルを介さずに円とウォンをつなぐ道は、銀行の側ではトークン化した預金で試されている。公開のチェーンの側で、その道の候補になるのがステーブルコインだ。円とウォンのステーブルコインが別々のチェーンにあっても、同じ仕組みでつながれば、一つの市場として扱える。規制が整えば、韓国からの旅行者が日本で使う1兆円近いお金のような流れも、将来はその上に乗りうる。Noditの検証、KRW1、ASAといった韓国での取り組みは、円の側がつながって初めて、円とウォンの間の道になる。その道は、ウォンにとどまらず、アジアのほかの通貨にも延びうる。

その道がどの仕組みで引かれるかは、この1年ほどで決まっていく。EJPYと、3メガバンクが共同で出すステーブルコインは、いずれも2026年度中の発行や実取引を目指す(④)34。改正金融商品取引法は、2027年7月までに大部分が施行される7。Ethereum上で約200億円分が発行されたJPYSCも、今はSBI VCトレードの口座の中でしか使えず、公開のチェーンでの流通への移行を控える635。CCIPChainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコル 2.0で、国内の検証者の席はChainlinkの側にも開いた(⑤)。どちらの側でも、本番のネットワークでその席に就いた日本企業はまだない3637。LayerZeroの一覧に載る日本企業は、JOCを運営する日本ブロックチェーン基盤だけで、それも2024年からテスト用のネットワークにあるDVNLayerZeroでチェーン間メッセージの真正性を確認する検証者にとどまる3638。

韓国では、LayerZeroは法律より先に入った。日本では、制度が先にそろった。LayerZeroにとって日本をとる意味は、仕組みが決まる前に、円の側の道を押さえることにある。