2026年9月21日、クロスチェーン基盤のLayerZeroが、米国の暗号資産銀行Anchorage Digitalのステーブルコイン発行において、相互運用性パートナーに選ばれたと発表した。前回の「Anchorage提携と、日本で変わりうるLayerZeroの潮流」では、この発表が、LayerZeroを離れる動きが5か月続いた後に出てきたことを整理した。

この記事では、発表そのものに戻り、LayerZeroが何を得たのか、そして何が課題として残るのかを見ていく。

発表の内容

LayerZeroは、Anchorage Digital Bank, N.A. が発行するステーブルコインの「preferred interoperability layer」、つまり優先的に採用される相互運用レイヤーになる。ステーブルコインはLayerZeroのトークン規格OFTで発行され、EVM互換チェーン、Solanaなどへ展開される予定とされている。最初に対応したのはTetherの米国向けステーブルコインUSATである1

Anchorageが、自社で発行するステーブルコインについてクロスチェーン基盤を名指しで選んだと公表したのは、調べた範囲では今回が初めてだ。AnchorageとChainlinkは2026年3月、米国の暗号資産政策を後押しする政治資金団体を共同で立ち上げているが、技術面での提携は公表されていない2

Anchorageという会社

Anchorage Digital Bankは、米国の通貨監督庁(OCC)から連邦レベルの銀行免許(national trust bank charter)を得た暗号資産銀行で、2021年1月にこれを取得した最初の一社である。機関投資家向けの資産保管(カストディ)で知られるが、今回の件で重要なのは、ステーブルコインの発行基盤を他社に提供していることだ。

規制に準拠した発行、カストディ、準備金の管理、ドルとの1:1での発行・償還、決済、API連携をまとめて提供しており、企業は銀行免許や準備金の管理体制を自前で用意しなくても、自社ブランドのステーブルコインを発行できる3。LayerZeroの発表が挙げているだけでも、Tether(USAT)、Western Union(USDPT)、香港のOSL Group(USDGO)、Falcon Finance(fUSD)の4つが、Anchorageの基盤から出ている1

「顧客」ではなく「販路」

Anchorageは、自らステーブルコインを出す会社ではなく、他社に発行させる会社だ。そこで相互運用性の役割を得たということは、一社の顧客を獲得したのではなく、これから発行体が生まれてくる場所に入ったことを意味する。

営業効率もまるで違う。発行体を一社ずつ開拓するなら、LayerZero → 発行体A、LayerZero → 発行体Bと一件ずつ回ることになるが、発行基盤に組み込まれれば、LayerZero → Anchorage → 発行体A / B / C … といったように、芋づる式に届く。

増えていく発行基盤

この型が一件で終わらない可能性があるのは、米国で同じ形の事業者が増えているからだ。

Anchorageは約4年間、連邦の銀行免許を持つ唯一の暗号資産企業だった。2025年12月12日、OCCはCircle、Ripple、Paxos、BitGo、Fidelity Digital Assetsの5社に条件付きの認可を出し、2026年2月にはStripe傘下のBridgeとCrypto.comが続いた4。規制下でステーブルコインを発行できる事業者は、これから増えていく。

ただし、その席をLayerZeroだけが取りに行っているわけではない。他社のステーブルコインを発行する基盤のうち、クロスチェーンの選択を公表している例を並べると、選択は分かれている。AnchorageはLayerZeroを優先的に使う。BitGoの基盤で発行されるUSD1はChainlinkのCCIPを使っており、BitGoは8月、今後自社が発行する資産すべてでCCIPを標準にすると発表した5。PayPalのPYUSDを発行するPaxosは、LayerZeroのOFTを使っている6

Anchorageで組んだ形は、次の発行基盤にも持ち込める型になりうる。ただしChainlinkも同じ型で動いており、どちらが多くの席を取るかはまだ決まっていない。

M0との役割分担

Anchorageの発行基盤には、LayerZeroとは別に、相互運用性にかかわる外部パートナーがもう一社いる。ステーブルコインの発行基盤を提供するM0だ。

M0は、企業が独自仕様のステーブルコインを設計・発行するための基盤で、Stripe、MoonPay、MetaMaskなどが利用している。2026年4月30日、AnchorageとM0は提携を発表し、M0が「ステーブルコインの設計、相互運用性、統合」を、Anchorageが「発行、カストディ、準備金の管理」を担うと役割を分けた7

ここでの相互運用性は、M0の仕組みで発行されたステーブルコイン同士が、共通のエコシステムの中でやりとりできることを指す。チェーンをまたぐ部分について、M0は複数のクロスチェーン基盤を使い分けている。2024年10月にWormholeを公式の相互運用プロバイダーに選び、現在の仕組みではWormhole、Hyperlane、LayerZeroの三つに対応している8

今回の発表は、それとは別に、Anchorageが発行するステーブルコインのチェーン間の移転に、LayerZeroのOFTを優先的に使うという内容になる。個々のステーブルコインがどちらをどう使うのかは公開されていない。M0自体がLayerZeroにも対応しているので、両者は排他的な関係ではない。LayerZeroはAnchorageのなかで優先的な位置を得たが、Anchorageにかかわるすべてのチェーン間の移転を担うとは限らない。

あわせて、Anchorage自身も中立の方針を示している。2026年5月、CEOのNathan McCauleyは、それまで推進してきた業界連合Global Dollar NetworkのステーブルコインUSDGから距離を置き、特定のステーブルコインを推さず中立でいるのが理にかなう、と述べた9

Anchorage経由のステーブルコインの規模

合計でおよそ16億ドル(2026年9月23日時点)。最大はOSLのUSDGOで約14.0億ドル、次いでUSATが約1.83億ドル、Western UnionのUSDPTが約1,660万ドルだ10

伸びは速い。USDGOは2026年2月のローンチから4か月後の6月に流通量5億ドルを超え、そこから3か月で3倍近くになった11。一方、米国のステーブルコイン市場全体ではUSDCが約754億ドル、USDTが約1,834億ドルあり、Anchorage経由の発行額はまだその一角にとどまる10

マルチチェーン化の必要性

必要になるのは、複数のブロックチェーンで流通させる要件を持つ発行体だ。すべての発行体に必要なわけではない。

現時点では、Anchorage経由の3つのステーブルコインはいずれも単一のチェーンで流通している。USATはEthereum、USDGOとUSDPTはSolanaだ10。ただしUSDGOは、ローンチ時の発表で、今後ほかのチェーンにも展開する計画を明記している12。今回の提携は、こうした展開が始まる前の段階での選定ということになる。

チェーンを増やすと、発行体の運用は複雑になる。チェーンごとの供給量の管理、発行と償還、権限の設計、緊急停止、送金量の上限、スマートコントラクトの管理、障害時の対応、チェーン固有のリスク。流動性と運用を一つのチェーンに集めたほうが合理的な発行体もいる。

したがって、「ステーブルコインにはLayerZeroが必要」ではなく、「複数のブロックチェーンで流通させる必要が出てきた発行体にとって、LayerZeroが有力な選択肢の一つになっている」が実態に近い。

まとめ

LayerZeroがAnchorageで得たのは、一社の顧客ではなく、規制下でステーブルコインが生まれてくる発行基盤の中での優先的な位置だ。発行基盤が増えていく米国で、これは再現できる型になりうる。

一方で、課題も残る。Anchorageの発行基盤には、Wormholeなど複数のクロスチェーン基盤に対応するM0がいて、LayerZeroがすべての移転を担うとは限らない。Anchorage経由のステーブルコインは合計約16億ドルで、現時点ではいずれも単一のチェーンで流通している。今回の選定が実際にどれだけの移転を生むかは、これからの展開で決まる。

発行基盤の中に入る形だけが入り方ではない。2026年9月7日、韓国最大の暗号資産カストディ事業者BDACSが、自社が発行するウォン建てステーブルコインKRW1にLayerZeroのOFT規格を採用している13。主要な発行基盤がすでに自前の移転の仕組みを持つ日本では、少なくとも当面は、こうした個別の発行体への採用のほうが現実的に見える。