①では、日本の主要な基盤がチェーンをまたぐ部分の答えの候補をすでに持っていることと、その候補が、日本では銀行系の基盤の外にはまだないことを書いた。この記事では、誰が何を、どの技術で解決していて、どこにまだ答えがないのか、その地図を具体的に描く。
Progmat Coin
Progmat Coinは、Datachainと共同開発した技術で、チェーンをまたぐ移転を目指している。Progmatは三菱UFJ信託銀行が筆頭株主の合弁会社で、2023年3月からDatachainと技術提携し、この機能を開発してきた1。2024年5月には、EthereumとBNB Chainのテストネットで、あるチェーンのステーブルコインを焼却し別のチェーンで同じ量を発行するBurn-Mint方式の移転に成功したと発表している2。
ただし、これはテストネットでの検証だ。Progmat Coin自体が実際にステーブルコインを発行した実績は、調べた範囲では確認できていない。2025年9月の商用化を目指していたが、2025年8月時点でも発行には至っていなかったと報じられている。2024年のDMM Bitcoinのハッキングを受け、Progmatのシステム開発に参加するGincoがウォレット関連の対応を迫られたことが一因とみられている3。
2026年2月には、AvalancheおよびDatachainとの協業を新たに発表し、ST基盤をAvalanche L1へ移すとともに、証券とステーブルコインを同時に決済するクロスチェーンのDvP・PvPサービスを提供するとした4。7月には、この仕組みを使った不動産STの実証が実際に動いている5。
送金
ProgmatとDatachainは2024年9月、ステーブルコインによる国際送金の基盤をつくるProject Paxを始めている。両社連名の発表によれば、Swiftの枠組みと連携し、通信規格IBCとDatachainのミドルウェア「LCP」、両社が共同開発したステーブルコインのスマートコントラクトを組み合わせる構成だった6。2025年9月には韓国の金融機関との第一段階の検証を終え、第二段階に商工組合中央金庫と、韓国の新韓銀行、NH農協銀行、Kbankが加わると発表している7。
世界ではこれに先んじて、2024年4月、国際決済銀行(BIS)が英中銀・NY連銀・ユーロシステム・日本銀行・韓国銀行・メキシコ銀行・スイス国立銀行と共にProject Agoráを立ち上げている。日本銀行は発足時点から参加している。トークン化した中央銀行の準備預金と民間銀行の預金を、共通の基盤の上で同時に決済する多国間の実験で、3メガバンクも加わり、2026年7月には日本円を含む6通貨、28機関による実弾検証を行っている89。
日本発の取り組みとしては、3メガバンク(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)と三菱UFJ信託銀行が2025年11月、Progmatの技術支援を受けて共同でステーブルコインを発行し、三菱商事のクロスボーダー決済に使う実証実験を発表している。金融庁のFinTech実証実験ハブにも採択されている10。
これとは別に、日本ブロックチェーン基盤(Japan Open Chainの運営会社)は2026年5月、信託型ステーブルコインEJPYの発行方針を発表した。Japan Open Chain上での発行・流通を中核に、Ethereumへの対応も視野に入れるとしており、金融庁からは取引上限のない第3種電子決済手段として承認を受けている11。
決済・送金、技術は割れている
ここまでの取り組みのうち、Project Paxと3メガバンクの実証実験は、いずれもDatachainのLCP・IBCを軸にしている。
SBIグループは2025年8月、Chainlinkと戦略提携を結んでいる。トークン化した不動産や債券をチェーンをまたいで扱うこと、トークン化ファンドの基準価額をブロックチェーン上に載せること、為替や国境を越える取引のPvP決済に、ChainlinkのCCIPを使う内容だ12。
Project Agoráはこれらとは性質が違う。日銀と3メガバンクも参加しているが、軸になっているのは特定の技術の採用ではなく、複数の中央銀行が共通の台帳を使うという制度上の枠組みそのものだ。技術選定という観点では、他の二つと並べて数えられるものではない。
Progmatの周辺はDatachainのLCP・IBCを、SBIグループはChainlinkのCCIPを使っている。少なくとも二つの異なる技術基盤が使われている。
相互運用インフラ不在のJPYC
ここまでの取り組みが答えを持っているのは、決済と送金の層だ。一つの発行体が出したトークンを、複数のチェーンで一つの供給として扱う層については、銀行系の基盤の外で、確認できた範囲ではまだ答えが出ていない。
JPYCがその実例だ。Ethereum、Polygon、Avalanche、Kaiaの4チェーンで、同一のコントラクトアドレスを使って個別に発行されている。JPYCの公式GitHubには、JPYC EXでの発行・償還についての記載はあるが、チェーン同士を直接つなぐブリッジについての記載は見当たらない13。
9月17日、韓国のUpbitへの上場をきっかけに、JPYCの価格が一時1円のペッグから3倍以上に乖離した。Upbitが対応していたのはEthereumのみで、Ethereum上のJPYCは流通量の約7%にすぎなかった1415。ブリッジがないため、Polygonなど他のチェーンに滞留していた供給をEthereumに動かす手段はなく、品薄を埋めるにはJPYC社の発行窓口(本人確認と1回100万円の上限がある)を通じて新規に発行するしかなかった。折悪しく、この窓口も同日、ミンティングの不具合でEthereum・Polygon両方とも一時停止している。
結果として、同じ発行体の同じトークンが、同じ日にEthereumで約3.14円、Polygonで約2.92円、Avalancheで約1.39円と、チェーンごとに異なる価格で取引される事態になった。価格差が1円近くまで戻るまでに、Ethereum・Polygonでは約8時間、Avalancheでは約2時間を要している16。ブリッジがあれば、この発行窓口を介さず既存の供給を動かせたはずで、KYCや上限、当日の発行停止といった制約は関係なくなっていた。それで価格差がどこまで縮んだかは分からないが、少なくとも発行窓口だけが頼りという構図は変わっていたはずだ。
似たケースで、韓国のBDACSも、同じ形の課題を抱えていた。ウォン建てステーブルコインKRW1は複数のチェーンで展開されていたが、チェーンをまたぐ相互運用の仕組みに摩擦があり、流通と利便性が制約されてきたという。BDACSはこの課題に対して、2026年9月7日、LayerZeroのOFTを採用するという答えを出した17。
まとめ
地図にすると、日本の決済・送金の層には、少なくとも二つの技術基盤が使われている。ProgmatとDatachainによるLCP・IBCと、SBIグループが使うChainlinkのCCIPだ。これとは別に、日銀と3メガバンクは、特定の技術を選ぶのではなく、他の中央銀行と共通の台帳を使うProject Agoráにも参加している。決済・送金の技術は一つに統一されていない。
一方、同じトークンを複数のチェーンで一体として扱う層は、銀行系の基盤の外で、確認できた範囲ではまだ答えがない。JPYCのUpbit上場では、その空白が、チェーンごとの価格乖離という具体的な形で表れた。
Anchorageで得たのは、発行基盤に入ることで一社ずつ口説かずに広がる形だった。JPYCのような空白を埋めるのは、性質が逆で、個別の発行体を一社ずつ口説くことになる。BDACSがLayerZeroを採用したのと同じ形だ。決済・送金の層をすでに主要な基盤が占めている日本では、LayerZeroの入り口があるとすれば、この個別採用のほうだろう。