Web3業界にいると、仮想通貨が絡む場面が多く、常に警戒が必要だと痛感する。詐欺の手口は実に多様だ。カスタマーサポートを装い、トラブル解決の名目でシークレットフレーズを打ち込ませる。ウォレット接続の際、資産へのアクセスを許可する署名ボタンを、何気ない操作の中にさりげなく紛れ込ませる。仮想通貨は、儲けることより、失わないことの方がよほど難しい、とすら思う。
仕事柄、この業界で財を成した人たちと接する機会も多い。うまく立ち回っている人がほとんどだが、正直、危なっかしいと感じる人も少なくない。
そんな自分にも、つい先日、詐欺と思われる接触があった。一例として記録しておく。相手の実名・写真は、本人になりすましている可能性があるため伏せている。
連絡はLinkedIn経由で、StraitsXのHead of Business Developmentを名乗る人物からだった。StraitsXはシンガポール金融管理局の規制下で運営される、実在するステーブルコイン企業だ。シンガポールドル建てのXSGD、米ドル建てのXUSD、インドネシアルピア建てのXIDRを発行しており、オンチェーンの取引額は累計180億ドルを超える。私自身、以前Mantleに在籍していた頃、BybitのXUSDキャンペーンを通じて彼らと接点を持ったことがあった。
話に乗ったのには理由がある。日本ではリテールの仮想通貨投資はやや落ち着いて見えるが、その裏で機関投資家の動きはかつてないほど活発だと感じている。これまで積み上げてきたセキュリティトークンの決済を、ステーブルコインで行う流れが具体化しつつあるのだ。同様の流れは香港や韓国でも進んでいる、というのが自分の見立てだった。だとすれば、StraitsXが円建てのステーブルコイン発行を検討していて、そのためのBDを探している、という筋書きは十分にありえた。
ちょうどWeb3方面の仕事をオープンに探していた時期でもあり、BDならやりたい仕事でもある。タイミング、知識、世の中の潮目——この3つが、たまたま全部噛み合ってしまった。話は弾んだ。
潮目が変わったのは、次のメッセージだった。「契約前は会社の詳細を共有できない規定になっているが、初期プロトタイプなら見せられる」として、GitHubのリンクが送られてきた。フロントエンドとユーザージャーニーを見れば、コンセプトが分かるという。感想がほしい、と。
※ 掲載した画像は、送信者が特定できないようAIで加工(黒塗り)している。そのため、一部が見えづらくなっている箇所がある。
ここで、ダウンロードもクリックもせず、まず確認した。「レビューする前に、Signalraラボ社はStraitsXとどう関係しているのか。最初のメッセージはStraitsXの求人の話だったので、どちらの会社の話なのかはっきりさせたい。あわせて、会社のメールアドレスをもらえますか。そちらにメールを送ります」。
それきり、返信は来ていない。
今回の詐欺を成功に近づけたのは、自分の状況によるところが大きい。それなりに知識が噛み合い、世の中のトレンドとも符合しており、求職活動のタイミングが合致したからこそ、この話は不自然なく自分の中に収まってしまった。前のめりに、実務的な知識まで添えて返信を重ねるたびに、話は先へ進んだ。ある意味で、詐欺を成功に近づける側に、途中まで自分から回っているのである。
それでも詐欺に気づけたのは、警戒心の強さではない。「会社のメールアドレスをもらえますか」という、ただの確認を後回しにしなかっただけだ。
この記事は、自分自身への戒めであり、同じような連絡を受けるかもしれない誰かへの、ささやかな注意喚起でもある。