はじめに
Monadの公式サイトを開くと、最初に「Enabling open access to financial markets」という一文が目に入る。その下でMonadは、自らを開かれたグローバル経済を支えるための機関投資家水準のブロックチェーンだと説明し、用途に資金の移動、トークン化、資本市場を挙げる1。メインネット公開の2週間前に財団が出した文章でも、使命は「中立な基盤の上で、公正な金融市場に誰もがアクセスできるようにすること」とされている2。
日本でも、ステーブルコインの制度が整い、金融機関が証券や預金をブロックチェーンに載せる動きが始まっている。金融市場を前面に打ち出すチェーンはMonadだけではない。Avalancheはすでに日本の証券基盤に選ばれ、EthereumやPolygonの上ではJPYCが流通している。Monadは2025年11月にメインネットを公開したばかりで、日本での実績はまだない。金融市場を狙って新しく入ってくるチェーンが、日本の何に合い、何に合わないのか。それを確かめる題材として、Monadを取り上げる。
チェーンとしてのMonad
概要と数字
Monadは、2025年11月24日にメインネットを公開したレイヤー1のブロックチェーンだ3。Ethereum向けのスマートコントラクトがそのまま動くが、合意、実行、データベースは独自に作り直している4。数値は2026年10月6日時点のもの。
レイヤー1なので、Ethereumのセキュリティは引き継がない。主な数値は次のとおり5。
| 項目 | 現行値 |
|---|---|
| ブロック時間 | 300ミリ秒 |
| 投機的確定 | 300ミリ秒(1スロット) |
| 確定 | 600ミリ秒(2スロット) |
| 処理能力 | 10,000 TPS以上 |
Monadは、EVMのバイトコードとの完全な互換をうたう6。Ethereum向けにコンパイルしたコントラクトは基本的にそのままデプロイでき、Solidityや既存の開発ツール、ウォレットも使える。
ただし挙動は同じではなく、Ethereumとの違いは12項目ある7。コントラクトのサイズ上限は24KBから128KBに広がり、一部の命令はガスの価格が変わった。blobを使うEIP-4844の取引は使えない。全体で共有されるmempoolはなく、取引は次にブロックを作るリーダーへ直接送られる。フルノードは、過去の任意の時点の状態を返さない。コードは動いても、ガスの見積もりや取引の送り方はそのままでは通らないことがある。
誰が作ったか
共同創業者は、Keone Hon、James Hunsaker、Eunice Giartaの3人。最初の資金は2022年に集めた。開発の中心はニューヨークのCategory Labs(旧Monad Labs)で、エコシステムの支援や委任はケイマン諸島のMonad Foundationが担う6。
調達は総額約2.62億ドルで、うちSeries Aが2.205億ドル6。Series Aは2024年4月に発表され、Paradigmが主導した8。
メインネット直前の2025年11月17〜22日には、Coinbaseで公開セールが行われた。75億MONを1枚0.025ドルで売り、販売額の上限は1.875億ドル6。申し込みは85,820人から2.69億ドルあった9。
MONの供給と配分
MONの初期供給は1,000億枚で、上限はない。ブロックごとの報酬で新たに発行され、その額はローンチ時の25 MONから、現在は1ブロック18 MONに下がっている6,10。手数料のうちbase feeは焼却される6。base feeの下限は100 MON-gweiで、優先してほしい取引は上乗せの手数料を払う11。
| 配分先 | 割合 | ローンチ時 |
|---|---|---|
| エコシステム開発(財団が管理) | 38.5% | ロックなし |
| チーム(財団とCategory Labsの従業員・創業者など) | 27.0% | ロック |
| 投資家 | 19.7% | ロック |
| 公開セール | 7.5% | ロックなし |
| Category Labsの財務(将来の従業員報酬) | 4.0% | ロック |
| エアドロップ | 3.3% | ロックなし |
ローンチ時点で50.6%がロックされており、ロック中のトークンはステークできない。ロック分はどれもメインネットから少なくとも1年は動かせず、その後3年かけて解除される6。
拡張性・分散性・安全性
ブロックチェーンでは、拡張性、分散性、安全性の三つを同時に高めるのは難しいとされ、トリレンマと呼ばれてきた。Monad自身は、これを「解決した」と主張している2。
拡張性:速さの仕組み
Monadの速さは、次の六つの仕組みの組み合わせから来ている4。
要になるのは、合意と実行を切り離したことだ。Ethereumでは、ブロック内の取引を実行して結果を確かめてから合意する。Monadは順番の合意を先に進め、実行はその後ろを追いかける。ノードは提案されたブロックを確定前から実行し始め、合意と実行が並行して進む。実行結果をまとめた状態ルートは、3ブロック後のブロックに記録される14。並列に計算して食い違いが出た取引はやり直すので、最終結果は、決めた順番どおりに一件ずつ実行した場合と同じになる15。
その代償もある。合意の時点ではまだ取引を実行していないので、実際に何ガス使うかが分からない。そこでMonadは、ガスを実際の使用量ではなく、取引に設定した上限で課金する11。
分散性:コンセンサスとガバナンス
Monadは、性能の向上が分散を犠牲にしてはならないと掲げる4。コンセンサスを担うのは、ステークの上位200までのバリデーターだ。
表の条件を満たせば誰でも加われるが、実際にどこへステークが集まるかは、当面、財団の委任に大きく左右される。財団は開始時に93億MONを170のバリデーターへ委任し19、初年度のうちに150億〜250億MONまで増やす計画だ6。委任先にはノードの稼働率98%以上や本人確認を求め、財団以外から10億MONを超えて集めたバリデーターからは委任を引き揚げる19。
ガバナンスには、トークン保有者がオンチェーンで投票する仕組みがなく、導入の予定もない。変更案はMIPとして公開の場で議論され、開発者の大まかな合意を経て実装される20。そのうえでアップグレードは、上位200のステークのうち3分の2以上を占めるバリデーターが、変更を組み込んだノードのソフトウェアに切り替えた時点で成立する。コンセンサスのルールを変えたり資産を差し押さえたりできる管理者キーはない6。
安全性:不正と確定への備え
MonadBFTは、前のリーダーのブロックを次のリーダーが捨てる「テイルフォーク」に耐えるように作られている。捨てたブロックの取引を、自分に有利な順番で組み直す行為を防ぐためだ13。使命に掲げる「公正な」市場につながる部分でもある。
確定には二段階ある。300msの投機的確定はほぼ確定とみなせる段階で、ブロックを提案したリーダーが同じ高さの別のブロックにも署名するという、まれな場合に限って覆りうる。600msの確定では、もう覆らない13。
不正をしたバリデーターのステークを自動で没収するスラッシュは、まだ実装されていない。不正はログに残し、責任を追えるようにしている10。外部監査はZellicとSpearbitが行い、コードは公開されている6。
エコシステムの今
これまでの取引は約9億件、アクティブなウォレットは900万超、稼働中のアプリは143超1。TVLは約10.4億ドルだ21。
TVLの上位には、Aave、Euler、Morpho、Curvanceといった貸し借りのプロトコル、利回りのPendle、それらの上で資金を運用するキュレーターが並ぶ21。多くはEthereumなどで実績を積んだ仕組みで、今のMonadの資金はなじみのあるDeFiに集まっている。