少し前、Midnightで働く知人の紹介で、Input Output(以下IO)で日本のコミュニティを担当している方とお話しする機会があった。話しぶりからIOの思想への共感と、コミュニティに注ぐ熱量が印象的だった。

そこで、IOという組織がどう生まれ、どんなコミュニティとともに歩んできたのかを、たどってみることにした。今回の記事では深掘りは控え、まずは公開された資料と数字から全体の輪郭をつかむ。

IOとCardano、Midnight

まず、この記事に出てくる三つの名前を整理しておきたい。

Cardanoは2017年9月に動き始めたブロックチェーンで、その上で使われる暗号資産をADA(エイダ)という14。IOは、そのCardanoを設計し、開発してきた会社組織である。MidnightはIOが構想した新しいブロックチェーンで、Cardanoと連携しながら、データを必要な分だけ見せることに重きを置く。本格的に動き出したのは2026年3月で、まだ半年あまりしかたっていない12。

創業者でCEOのCharles Hoskinsonは、Ethereumの立ち上げに半年ほど関わったあと、2014年の暮れにJeremy WoodとIOを設立した116。

Cardanoは、ひとつの会社に任せず、役割を分けて立ち上げられた。研究と開発はIO、開発の監督と利用者の代弁はスイスのCardano Foundation、事業開発と投資は2017年6月に東京で登記されたEMURGOが担った。三つの組織は、持ち主も経営陣もそれぞれ異なる117。

開発資金を集める販売は、別の日本の会社が受け持った。当時の販売責任者は、この形に落ち着くまでに「運営企業の構成、役割、資本政策など様々な点を議論した」と振り返っている2。Cardano Foundationには、開発と販売の両方を監査する役目も与えられていたという2。

Cardanoと日本

Cardanoと日本の関わりは、立ち上げの資金から始まる。メインネットの開始前、ADAはのちに引き換えられる「バウチャー」の形で売られた。2015年9月から2017年1月までに14,402枚(計約260億ADA、1枚あたり平均約180万ADA)が売れ、集まった6,200万ドル(約69億円)の94%は日本からのお金だった34。

日本との関わりはその後も続いた。2020年には、英語に不慣れな日本の人でもステークプールを運営できるように支える「SPO JAPAN GUILD」ができた5。2021年8月にはBITPointが、国内の登録業者として初めてADAの取り扱いを始めている6。2024年夏には、Cardanoの運営ルールを定める「憲法」(Cardano Constitution)づくりのワークショップが世界61か所で開かれ、そのうち2か所は大阪と東京だった7。

自治への移行

Cardanoで「誰が決めるか」は、この10年で大きく変わった。

メインネットが動き出してからしばらくの間、プロトコルの変更を承認していたのは創業の三組織だった。「ジェネシスキー」と呼ばれる鍵が7本あり、IOが3本、Cardano FoundationとEMURGOが2本ずつ持っていた。変更には、このうち5本の署名が要る4。

この権限は、2024年9月から段階を踏んで保有者の手に移された。ブロックチェーン上で提案ができるようになり、2025年1月のPlominハードフォークで保有者による自治に必要な機能が出そろった。翌月には、正式な憲法が発効している8。いまはADAの保有者が、投票権を「DRep」と呼ばれる代表者に預ける。トレジャリーからお金を出すには、DRepの賛成67%と、憲法委員会の承認が要る。

2024年9月以降、トレジャリーからの支出を求める提案は104件出され、70件、合わせて約8億ADAが承認された。開発元のIOも同じ手続きを踏んでいる。2026年にIOが出した9件の提案のうち、承認されたのは8件。研究予算の提案は、途中の集計では反対が8割を超えていたが、締め切りまでに票が動き、賛成75%で通った8。

票がどこに預けられているのかも、オンチェーンのデータから集計してみた(2026年10月初め時点)8。DRepに預けられた投票権は157億ADAで、流通しているADAの4割あまりにあたる。このうち104億は「常に棄権」という選択肢に預けられていて、この分は提案ごとの賛否の計算に加わらない。個々のDRepは859人いて、52億ADAを預かっている。その半分を上位10人が、3分の2を上位21人が占める。

鍵を持つ三組織から、859人のDRepへ。決める人の数は大きく広がった。

日本の保有者も、いまはこの仕組みの中にいる。東京でステークプールを運営するSIPOのように、DRepとしての投票理由を日本語で公開しているところもある18。

Midnight

多くのブロックチェーンでは、取引の中身が誰にでも見える。Midnightはゼロ知識証明という暗号の技術を使い、取引が正しいことは示しながら、中身は手元に置いておけるようにした。公式サイトの言葉を借りれば、「利用者のデータをすべて守り、必要なことだけを、必要なときに開示する」9。Midnightはこの考え方を「選択的な開示」と呼んでいる。

仕組みの特徴は、NIGHTとDUSTという二つの単位を分けたことにある。NIGHTは保有が公開されるトークンで、自治への参加やブロックを作る人への報酬に使われる。DUSTは手数料に充てる資源で、NIGHTを持っていると生まれ、時間とともに減る。中身は秘匿され、他人には渡せない。手数料をこの資源で払うことで、使う人が先の費用を見積もれるようにした、と公式は説明している10。

NIGHTは2025年12月、まずCardano上で発行された。配布はCardanoだけでなく、BitcoinやEthereumなど8つのチェーンの保有者にも開かれ、そのひとつには800万を超えるアドレスが参加した11。

Midnightのメインネットは2026年3月17日に動き出した。ブロックチェーンは、取引を確かめて記録するノードを多くの参加者が動かすことで成り立つ。Midnightでは当初、この役目をGoogle Cloud、MoneyGram、eToro、VodafoneのPairpoint、Worldpayなど9社が担っている。Midnightの運営を担うMidnight Foundationは、これを段階的に、誰でもノードを動かせる形へ移していくとしている12。Cardanoも最初は、IO・Cardano Foundation・EMURGOの三組織だけが変更を承認する形から始まった。限られた組織で始めてあとから開いていく点は、両チェーンの共通点である。

日本では2026年8月24日、交換業者のS.BLOXが登録業者として初めてNIGHTの取り扱いを始めた15。

Midnight Cityといまの動き

メインネットの3週間ほど前、2026年2月26日には「Midnight City」が公開された13。人のように個性や目的を与えられたAIエージェントが、街の住人としてMidnight上で自律して働き、会話し、取引を続ける。プライバシーを守ったまま、社会的・金融的なやり取りの規模に耐えられることを示す実演だという14。

筆者も「Makoto」というエージェントを作ってみた。ただMidnight Cityはまだ早期公開の段階にあり、街に入るための枠(spawn ticket)が空くのを待っているところだ。同じように順番を待つエージェントは、3,787体いた(2026年10月6日時点)。

Midnight Cityの画面(2026年10月6日)

おわりに

Cardanoの10年をたどると、決める力が少しずつ外へ開かれてきたことがわかる。三組織が7本の鍵で承認していた仕組みは、いまでは859人のDRepが開発元の予算まで投票で決める形になった。そこに、取引の中身を必要な分だけ見せるMidnightが加わり、同じように限られた運営から分散へと歩み始めている。

日本は、その歩みに最初から関わってきた。立ち上げの資金の多くを出し、ステークプールを運営し、憲法づくりの場を開き、いまは投票にも加わっている。

公開された資料と数字からたどれる輪郭は、ここまでである。