少し前、P2P.orgというバリデーターを代行するプロジェクトが、クジラやファミリーオフィスに直接営業をかけ、$1M単位のディールでAUMを増やそうとしたことがあった。複数国でカントリーヘッドの採用を進めていたようだが、日本の枠もここにきてクローズされた。
P2Pはすでに$10Bを超える資産のステーキングを担っているが、そのうちの一部は別のプロトコルを通じて流入したものだ。たとえばユーザーがLidoでステーキングしたETH資産が、P2Pによって検証され、イールドが発生する、という具合である。P2Pを採用しているプロトコルはLidoだけではなく、数多い。以前勤めていたMantleがインキュベートしたmETHプロトコルも、P2Pを利用していた。
先方のニーズとしては、日本の仮想通貨リッチに新規営業をかけ、ステーキングさせることだった。
取引所営業との違い
私も経験のある取引所のビジネスでは、顧客資産をできるだけ売買させ、回転させるほど儲かる仕組みなので、一件あたりのロットは小さくなりがちだ。取引所側もそこを工夫し、無期限先物という仕組みにかこつけて100倍などのハイレバレッジ取引を提供するようになった。一方、ステーキングする暗号資産はそれと比べてリスクが低く、ロットも自然と大きくなりやすいだろうとは想像できた。ただ、いくつかの点で、それがBDとして継続的に成立する仕事なのか懐疑的で、なかなか踏み出せずにいた。
まず、ある程度クリプトリテラシーの高い人は、自分でバリデーターを選んで預けに行く。向こうから問い合わせが来て対応する、という形の商談はあり得ても、新規営業で獲得できる場面は限られるはずだ。
次に、P2Pはそもそもノンカストディアルで、顧客資産を預かっているわけではない。面倒な検証作業を代行し、その対価として手数料を得るビジネスだ。この領域にはP2Pのほか、Kiln、Figmentなど似たサービスを提供するプレイヤーがいて、差別化はよく「営業担当の質」だと語られるが、正直そこまで差はつけられないだろうと思う。
さらに、ピュアなステーキング業界という括りではこの3社が代表格で、パフォーマンスで言えばP2Pに定評があるのも事実だ。ただ、顧客側から見た選択肢はもっと広い。カストディアル系まで含めれば、ほぼすべてのCEXが競合になる。仮にリテラシーが高くノンカストディアル志向の顧客だとしても、非中央集権型のステーキングプロトコルという選択肢があり、多くの場合そちらの方がイールドが良く、見栄えが良いことが多い。
つまり、カウンターパーティーリスクを許容できる顧客ならCEXかステーキング系プロトコルを選ぶだろうし、逆にリスクを一切取りたくない顧客ならそもそもステーキングしない。P2Pに預けるというのは、その中間のリスクを絶妙に取りにいく志向を持つ、ごく限られた層の話になる。そしてそういう属性の人は大抵リテラシーが高く、営業担当の出る幕はあまりない。
KOL経由という発想
だったら、取引所がそうしてきたように、KOL経由のビジネスに転換できないか。もちろん金額が金額なので、YouTubeやXで大々的に宣伝するような商品ではない。ただ、KOL自身がクジラであることも多く、クジラはクジラの周りに集まりやすいものだ。そう考えて、紹介プログラムの中身を確認してみた。支払いサイクルや期間(12ヶ月、四半期ごと)は公式サイトに明記されているが1、具体的な料率までは公開されていない。内部の人間に確認したところ25%とのことだったので、それをもとに、各トークンをステーキングした際に得られる利益を試算してみたのが、次の表だ。
| Token | NRR | 総報酬 | VF | 手数料総収入 | 顧客 | P2P | 紹介者 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ETH | 2.90% | $29,000 | 5% | $1,450 | $27,550 | $1,087.5 | $362.5 |
| SOL | 6.60% | $66,000 | 7% | $4,620 | $61,380 | $3,465 | $1,155 |
| SUI | 1.51% | $15,100 | 10% | $1,510 | $13,590 | $1,132.5 | $377.5 |
| HYPE | 2.30% | $23,000 | 2% | $460 | $22,540 | $345 | $115 |
| ADA | 2.20% | $22,000 | 2% | $440 | $21,560 | $330 | $110 |
| MON | 5% | $50,000 | 0% | $0 | $50,000 | $0 | $0 |
| DOT | 5.80% | $58,000 | 10% | $5,800 | $52,200 | $4,350 | $1,450 |
| ATOM | 16.59% | $165,900 | 8% | $13,272 | $152,628 | $9,954 | $3,318 |
| TRX | 5% | $50,000 | 5% | $2,500 | $47,500 | $1,875 | $625 |
| POL | 2.94% | $29,400 | 0% | $0 | $29,400 | $0 | $0 |
| SEI | 4.01% | $40,100 | 10% | $4,010 | $36,090 | $3,007.5 | $1,002.5 |
| APT | 7.26% | $72,600 | 7% | $5,082 | $67,518 | $3,811.5 | $1,270.5 |
| AVAX | 7.65% | $76,500 | 5% | $3,825 | $72,675 | $2,868.75 | $956.25 |
| LINK | 0% | $0 | 10% | $0 | $0 | $0 | $0 |
| NEAR | 4.89% | $48,900 | 7% | $3,423 | $45,477 | $2,567.25 | $855.75 |
| 0G | 45% | $450,000 | 10% | $45,000 | $405,000 | $33,750 | $11,250 |
| BERA | 3.30% | $33,000 | 0% | $0 | $33,000 | $0 | $0 |
| ALGO | 4.50% | $45,000 | 7% | $3,150 | $41,850 | $2,362.5 | $787.5 |
| MANTA | 20% | $200,000 | 10% | $20,000 | $180,000 | $15,000 | $5,000 |
| XTZ | 8.57% | $85,700 | 9.95% | $8,527.15 | $77,172.85 | $6,395.36 | $2,131.79 |
| GRT | 18% | $180,000 | 7.9% | $14,220 | $165,780 | $10,665 | $3,555 |
| T (Threshold) | 3.75% | $37,500 | 10% | $3,750 | $33,750 | $2,812.5 | $937.5 |
| GRAM | 20.69% | $206,900 | 15% | $31,035 | $175,865 | $23,276.25 | $7,758.75 |
| SAGA | 10% | $100,000 | 2.75% | $2,750 | $97,250 | $2,062.5 | $687.5 |
| TIA | 5.20% | $52,000 | 7% | $3,640 | $48,360 | $2,730 | $910 |
| KSM | 20% | $200,000 | 15% | $30,000 | $170,000 | $22,500 | $7,500 |
| AVAIL | 8% | $80,000 | 15% | $12,000 | $68,000 | $9,000 | $3,000 |
| MINA | 10% | $100,000 | 8% | $8,000 | $92,000 | $6,000 | $2,000 |
| EGLD | 7.81% | $78,100 | 17% | $13,277 | $64,823 | $9,957.75 | $3,319.25 |
| CRO | 7.30% | $73,000 | 5% | $3,650 | $69,350 | $2,737.5 | $912.5 |
| Canton | 50% | $500,000 | 20% | $100,000 | $400,000 | $75,000 | $25,000 |
| IKA | 12% | $120,000 | 10% | $12,000 | $108,000 | $9,000 | $3,000 |
| TAC | 50% | $500,000 | 10% | $50,000 | $450,000 | $37,500 | $12,500 |
| IOTA | 15% | $150,000 | 10% | $15,000 | $135,000 | $11,250 | $3,750 |
| IP | 6.20% | $62,000 | 5% | $3,100 | $58,900 | $2,325 | $775 |
| STRK | 13.20% | $132,000 | 15% | $19,800 | $112,200 | $14,850 | $4,950 |
| zkSync | 未掲載 | NA | 11% | NA | NA | NA | NA |
| ALEO | 4.50% | $45,000 | 7% | $3,150 | $41,850 | $2,362.5 | $787.5 |
※ 各トークンへ$1,000,000をステーキングしたと仮定した場合の年間試算。NRR=想定年利(Net Reward Rate)、VF=P2Pの手数料率(Validator Fee)。「顧客」「P2P」「紹介者」は、そこから生まれる手数料収入の配分先(P2P75%・紹介者25%)。
トークンによって料率は変わるが、たとえばETHならP2Pの取り分はイールドの5%で、それが紹介経由なら、紹介者にはその5%のうち25%が入る。ただしこの25%には期限があり、12ヶ月とのことだ。紹介者への料率と付与期間は、交渉で動かせるものではないらしい。P2Pは蓄積型のビジネスなので、時間が経つほど利益は指数関数的に増えていくが、期間を切られてしまえば紹介者側が受け取るのは薄利多売の方だ。マイナーなコインなら料率自体は高く見えるが、そもそも大口で預けてくれる母数が限られていて、あまり現実的ではない。ETHやSOLのようなメジャー通貨だと、紹介者が仮に$10M(=16億円程度)を動かせたとしても、手にできるのはせいぜい$10,000強といったところだ。
ただ、これはP2Pという商品や技術の話ではない。パフォーマンスさえ良ければ、プロダクト自体は放っておいても広がっていくのかもしれない。問題は、そのポジションに就く一人の人間が、新規営業やKOL経由の紹介という手段で、それを"広げる側"に回れるかどうかだ。正直なところ、先方の給与やコミッション体系まで把握しているわけではないし、この試算だけで判断しきれていない部分もあると思う。プロジェクトに関わること自体は、業界経験を積む意味では悪くない選択肢だとも思う。ただ、今持っている情報だけでは、そこに勝機を見出すところまでは至っていない。